もくじ
「森と湖の国」として知られるフィンランドですが、ビジネスの文脈では「イノベーションとテクノロジーの集積地」として世界中から注目を集めています。
日本からはフィンエアーが直行便を運航しており、日本から最短で到着できるヨーロッパの玄関口としても機能しています。通信(6G)、スタートアップ、環境技術、デザイン産業など、多岐にわたる分野での視察や商談が増加傾向にあります。
フィンランド出張において、訪問先は首都ヘルシンキに留まらないケースが増えています。目的の産業クラスターに合わせて、以下の主要都市と空港を押さえておきましょう。
首都であり、政治・経済の中心地。多くの多国籍企業が北欧拠点を置いています。ヨーロッパのハブ空港として機能しており、市内中心部までは電車で約30分とアクセスも抜群です。
「北欧のシリコンバレー」とも呼ばれるテクノロジー都市。ノキア(Nokia)のルーツがあり、現在は6G(次世代通信規格)研究の世界的な中心地です。通信・IT関連の出張先として頻繁に選ばれます。
フィンランド第2の都市圏を持つ産業都市。製造業のデジタル化やスマートシティ・プロジェクトが進んでおり、産業機械やICT関連のビジネス交流が盛んです。
古都でありながら、バイオテクノロジーや海事産業(造船)の拠点です。製薬やライフサイエンス分野での渡航先として知られています。
フィンランドは「シェンゲン協定加盟国」です。入国審査は厳格に行われるため、渡航前に以下の要件を必ず確認してください。要件を満たしていない場合、航空機への搭乗を拒否されるリスクがあります。
日本国籍の方が、報酬を伴わない商談、会議出席、視察などを目的として短期(90日以内)で渡航する場合、ビザは不要です。
現地企業から報酬を得る場合や、技術的な実務を行う場合は、期間に関わらず就労許可(在留許可)が必要になる可能性があります。判断に迷う場合は、事前に大使館へ確認することをおすすめします。
ビザ免除での滞在は「過去180日間の期間内で最大90日間」と定められています。
過去半年以内に、フィンランド以外のシェンゲン協定加盟国(フランス、ドイツ、イタリアなど)に出張や旅行で滞在していた場合、その日数も合算されます。頻繁に欧州へ渡航する方は、残存日数に十分ご注意ください。
フィンランド入国時、パスポートには以下の2つの条件が求められます。
パスポートの更新時期が近い場合は、余裕を持って新しいパスポートに切り替えておくのが安全です。
欧州への渡航認証制度「ETIAS(エティアス)」の導入が予定されています(2025年以降導入予定)。導入後は、ビザ免除の短期渡航であっても事前のオンライン申請と手数料の支払いが必要になります。最新情報は必ず公式サイト等でご確認ください。
ETIAS(エティアス)はいつから必要?2026年導入予定の最新情報解説
フィンランドへの渡航において、最も注意すべきなのは「滞在期間」と「現地での活動内容(報酬の有無)」です。日本国籍者は優遇されていますが、シェンゲン協定の厳格な運用ルールを理解しておく必要があります。
日本国籍の方が、報酬を伴わない商用目的で渡航する場合、原則としてビザ(査証)は不要です。パスポートのみで入国し、活動を行うことができます。
商談、契約交渉、会議、展示会への出席、市場調査、視察、社内研修(受講者として)
「過去180日間の期間内で最大90日間」滞在可能です。
※この日数はフィンランド単独ではなく、シェンゲン協定加盟国(フランス、ドイツ、イタリアなど全29カ国)の滞在日数が合算されます。過去半年以内に他の欧州諸国へ出張・旅行していた場合、フィンランドでの滞在可能日数が90日より少なくなっている可能性があります。
たとえ90日以内であっても、以下の場合は「就労」とみなされ、就労のための在留許可が必要になることがあります。
※例外として、通訳、専門家、研究者などは、特定の条件下で招待を受けた場合に限り、許可なしで最大90日間の就労が認められるケースがあります(詳細は移民局規定を参照してください)。
フィンランドでは、90日を超える滞在や就労を目的とする場合、通常の「ビザ」ではなく「在留許可(Residence Permit / フィンランド語:Oleskelulupa)」を取得します。
ビジネス目的で申請される主なカテゴリーは以下の通りです。
対象:高等教育を受けた専門職、ITエンジニア、特定の分野で高度なスキルを持つ人材。
条件:フィンランドでの雇用契約があり、給与が一定基準(2024-2025年基準で月額約3,600〜3,900ユーロ以上※)を満たしていること。
※「ファストトラック」の対象となり、申請から最短2週間程度での審査完了が期待できます。
対象:日本法人からフィンランド現地法人へ転勤するマネージャー、スペシャリスト、研修生。
特徴:企業内転勤専用の許可区分です。
「Dビザ」を併せて申請することで、在留許可カードの到着を待たずに(在留許可の決定通知を受け取り次第)すぐに入国し、現地でカードを受け取ることが可能です。
対象:専門家(Specialist)、スタートアップ起業家、およびその家族など。
ビザや在留許可の要件は頻繁に変更されるため、必ず一次情報を確認してください。
最も正確で詳細な情報源です。在留許可の種類や申請要件はここで確認します。
日本における在留許可申請の受付業務は、大使館ではなくVFS Globalが代行しています。生体認証(指紋登録)やパスポート提示の予約はここで行います。
一般的な領事サービスや、日本独自の特例に関する問い合わせなど。
2025年以降、ビザ免除渡航者に対して導入が予定されている事前認証制度です。渡航前に登録が必要か、最新の実施状況を確認してください。
フィンランドはデジタル化が進んだ国ですが、入国審査では依然として「紙の書類」や「明確な提示」が求められる場面があります。出発直前に慌てないよう、以下の項目を一つずつクリアにしていきましょう。
最も基本的かつ、不備があると即座に渡航中止となる項目です。航空券を予約する前に必ず現物を確認してください。
シェンゲン協定加盟国からの「出国予定日」から3ヶ月以上の有効期間が必要です。
※万が一の予定変更に備え、6ヶ月以上の余裕があることが望ましいです。
有効期間内であっても、発行日から10年を経過しているパスポートはシェンゲン協定国では無効とされる場合があります。
入国・出国スタンプのために、少なくとも連続した2ページ以上の空白があることを確認してください。
入国審査官は「不法就労の疑いがないか」「滞在費を賄えるか」「期日通りに帰国するか」を厳しくチェックします。質問された際に、口頭だけでなく書類で即座に証明できるよう準備してください。
「必ず日本へ帰る(または第三国へ出国する)」ことの証明です。片道航空券での入国はトラブルの元となります。
ホテル名、住所、電話番号が記載されたもの。
※重要:フィンランドの訪問先企業が発行した書類。以下の内容が含まれているのが理想的です。
滞在中の医療費をカバーできることの証明。クレジットカード付帯の場合は、カード会社から英文の証明書を取り寄せておくと安心です。
既に手元にある場合は、パスポートと一緒に提示します。
現地でカードを受け取る場合は、移民局からの決定通知書やDビザのページを提示します。
管理部門の方は、出張者を送り出す前に以下のリスク管理を行ってください。フィンランドは治安が良い国ですが、欧州情勢の影響や物価高への対策が必要です。
外務省の海外安全情報配信サービス「たびレジ」への登録を出張者に義務付けてください。緊急時の安否確認に必須です。
フィンランドは日本に比べて物価(特に外食費や交通費)が高い傾向にあります。従来の出張規程の日当で足りるか確認し、必要であれば実費精算の上限を引き上げるなどの調整を行ってください。
フィンランドは「完全キャッシュレス社会」に近いです。現金のユーロを用意するよりも、ICチップ付きのクレジットカード(VISAまたはMastercard)を持たせる方が重要です。PINコード(暗証番号)を忘れていないかも確認させてください。

日本からの直行便の多くは「ヘルシンキ・ヴァンター国際空港(HEL)」に到着します。この空港はコンパクトで効率的な設計が特徴ですが、シェンゲン協定の入り口として審査は厳格に行われます。飛行機を降りてから到着ロビーに出るまでの手順をシミュレーションしておきましょう。
飛行機を降りたら「Exit」または「Baggage Claim」の表示に従って進み、入国審査場(Border Control)へ向かいます。
フィンランドは日本のパスポート保持者に対し、自動化ゲート(Automated Border Control)の利用を認めている場合があります。「All Passports」または「Non-EU/EEA」の表示に進みますが、日本の国旗マークが表示された自動ゲートがあれば、そこを利用することで待ち時間を大幅に短縮できます。
手順:パスポートの写真ページをスキャン → カメラで顔認証 → ゲートが開く → 前方のブースにいる審査官へパスポートを渡す。
自動ゲート通過後、または有人ブースにて、審査官にパスポートを提示し、入国スタンプを押してもらいます。
※短期出張(ビザなし)の場合、入国スタンプは滞在日数の証明となる命綱です。必ず押印された日付が正しいか、その場で確認する癖をつけてください。
ビジネス渡航の場合、以下の点を明確に(英語で)答えられるようにしましょう。
入国審査を抜けたら、手荷物受取所(Baggage Claim)へ進みます。モニターで自分の便名を確認し、ターンテーブルから荷物をピックアップしてください。
その後、税関(Customs)を通過します。
10,000ユーロ以上の現金(等価の外貨・小切手含む) マネーロンダリング対策のため、10,000ユーロ相当額以上の現金を持ち込む(または持ち出す)場合は、必ず税関で申告しなければなりません。
会社の予備費などを現金でハンドキャリーする場合は特に注意が必要です。無申告で見つかると、没収や罰金の対象となります。
職業用具・商品サンプル 高額な機材や販売目的の商品サンプルを持ち込む場合、一時輸入の手続き(カルネなど)が必要になることがあります。
スムーズに入国するために、以下の「タブー」を犯さないようご注意ください。
「観光(Sightseeing)」と言って入国したのに、実際には工場で作業をしていたなどが発覚した場合、虚偽申告とみなされ、強制送還や将来的なシェンゲン協定国への入国禁止につながる恐れがあります。ビジネス目的であれば、堂々とビジネスであると伝えてください。
「予定が決まっていないから片道航空券で来た」は、不法滞在を疑われる最大の要因です。日程が流動的な場合でも、変更可能な復路チケット(オープンチケット等)を所持しておくことを強く推奨します。
「どこに泊まるか分からない」「誰に会うか分からない」といった回答は不審がられます。招へい状や日程表を提示し、身元と目的がしっかりしていることをアピールするのが最善の防御策です。
ヘルシンキ・ヴァンター国際空港は、フィンランドの首都ヘルシンキから北に約17キロメートルほどのヴァンターに位置する、フィンランド最大の空港です。フィンエアーの拠点空港でもあり、北欧の各地域をはじめ、欧州やアジア方面へのハブ空港としての役割を持っています。また、日本からは、日本航空(JAL)やフィンエアーから直行便が就航しています。
ヘルシンキ・ヴァンター国際空港とヘルシンキ中央駅を結びます。所要時間は約30分です。運賃は4.10ユーロです。(料金は変動する場合がございます。)
600番の路線バスが空港とヘルシンキ市内を結んでいます。所要時間は約40分です。運賃は4.10ユーロです。(料金は変動する場合がございます。)
空港から市内までの所要時間は30分程度で、料金は約40~50ユーロです。
フィンランドは「平等」と「実用性」を重んじる社会です。日本のビジネス慣習(形式的な挨拶や過度な上下関係)を持ち込むと、コミュニケーションにズレが生じることがあります。現地の流儀を尊重することが、信頼関係構築への近道です。
フィンランドのビジネススタイルは、欧州の中でも比較的カジュアルです。基本は初対面や金融・法務系を除き、ノーネクタイの「スマートカジュアル」が一般的です。清潔感があれば、ジーンズにジャケットといったスタイルも珍しくありません。
冬の室内は暖房が完備されているため、厚着をしすぎると汗をかきます。「脱ぎ着しやすい上着(コート)」と「滑りにくい靴」が必須です。
【重要】靴を脱ぐ文化
オフィスや訪問先によっては、玄関で靴を脱ぐ場合があります。靴下の穴や汚れには十分ご注意ください。
フィンランド人は時間を非常に正確に守ります。5分の遅刻でも連絡を入れるのがマナーです。
また、無駄な世間話(スモールトーク)よりも、本題に単刀直入に入ることが好まれます。会話の合間に沈黙があっても、それは「思考の時間」と捉えられ、ネガティブな意味はありません。無理に埋めようとしなくて大丈夫です。
フィンランド出張で避けて通れないのが「サウナ」への招待です。これは最大の接待であり、信頼の証です。
※健康上の理由などで断ることは失礼ではありませんが、可能な限り参加することで距離が縮まります。
基本は全裸ですが、ビジネス接待や男女混合の場合は水着着用が許容されるケースも増えています。事前に確認するか、水着を持参しておくと安心です。
治安は非常に良い国ですが、ルールには厳格です。
スーパーでは軽いお酒(5.5%以下)しか買えません。ワインやウオッカなどの度数が高いお酒は、国営専売店「Alko(アルコ)」でのみ購入可能です(閉店時間が早いので注意)。
また、公共交通機関内での飲酒は禁止されています。
屋内は原則全面禁煙です。屋外でも指定場所以外での喫煙は厳しく制限されています。歩きタバコは厳禁です。
フィンランドは世界トップクラスの男女平等社会です。性別による役割分担意識や、女性軽視と受け取られるジョークは、ビジネスにおいて致命的な不信感を招きます。
上司と部下の関係も対等です。日本的な「偉い人を極端に持ち上げる」態度は、かえって奇異に映ることがあります。
管理者の方は、出張者が現地の労働慣行を尊重し、日本側の都合を押し付けないよう指導してください。
フィンランド人のワークライフバランス意識は非常に高いです。多くのビジネスパーソンは、16時〜17時には退社し、家族との時間を過ごします。夕方以降や金曜日の午後に会議を設定するのは避けましょう。また、就業時間外のメールや電話への即レスを期待してはいけません。
コンプライアンス(贈収賄防止)の観点から、高価な贈り物は受け取りを拒否されることがあります。日本のお菓子や実用的な文房具など、数千円程度の「消えもの」が喜ばれます。過度な包装は「環境に悪い(ゴミになる)」と敬遠されることもあるため、簡易包装が好ましいです。
サービス料が含まれているため、レストランやタクシーでのチップは基本的に不要です。
素晴らしいサービスを受けた場合に、端数を切り上げる程度で十分です。経費精算の際、チップの領収書がないと悩む必要はありません。
ビジネスが無事に終わっても、日本に帰国するまでが出張です。特にシェンゲン協定圏からの出国審査は、次回のヨーロッパ渡航の可否に関わる重要なプロセスです。
ヘルシンキ・ヴァンター空港は効率的ですが、シェンゲン圏外(日本など)へのフライトは、出国審査(パスポートコントロール)の通過が必要です。混雑時は長蛇の列になることがあるため、余裕を持った行動が求められます。
フライト出発時刻の「2.5時間〜3時間前」には空港に到着してください。出国審査の待ち時間に加え、免税手続き(Tax Refund)や、広大なターミナル内の移動(ゲートが遠い場合があります)を考慮するためです。
ヘルシンキ空港では最新のCTスキャナーが導入されており、手荷物検査が非常にスムーズです。PCや電子機器をカバンから出す必要はありません。
液体物も「2リットルまで」持ち込み可能となっており、ペットボトル飲料などを捨てる必要がなくなりました(※乗り継ぎ先の空港ルールにはご注意ください)。
セキュリティ通過後、免税店エリアを抜けて搭乗ゲートへ向かう途中にあります。日本のパスポート保持者は、出国時も自動化ゲートを利用できます。
ゲート通過後、必ず係員により「出国スタンプ」が押されます。これが「期間内に出国した」という唯一の証拠になるため、押し忘れがないかその場で必ず確認してください。
「うっかり1日過ぎてしまった」というミスは、国際ビジネスにおいて致命的なダメージとなります。
ビザ免除期間(90日)や、在留許可の有効期限を1日でも過ぎて滞在することです。
滞在超過日数に応じた罰金が科されます。
最も重い処分です。数年間、フィンランドだけでなく全てのシェンゲン協定加盟国への入国が禁止されるリストに登録される可能性があります。欧州全域への出張ができなくなるため、ご自身のキャリアや会社の欧州ビジネスに甚大な損害を与えます。
プロジェクトの延長や、病気・事故などの不可抗力により、予定していた帰国日に戻れない可能性がある場合は、「期限が切れる前」に動くことが鉄則です。
単なる「航空券が取れなかった」「仕事が終わらなかった」という理由では、短期滞在の延長は原則認められません。医師の診断書(Medical Certificate)や、航空会社の欠航証明書など、客観的な証拠が必要です。
出張者が現地でトラブルに巻き込まれた際、すぐにサポートできるよう、現地の弁護士や大使館の連絡先をリスト化しておきましょう。また、90日ルールギリギリの日程を組ませないことが最大のリスク管理です。
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