カナダ出張の概要
カナダは広大な国土を持ち、地域ごとに主要産業やビジネス環境が大きく異なります。円滑なビジネス渡航を実現するためには、各都市の特性と、入国に際しての厳格な法的要件を事前に正しく理解しておくことが不可欠です。
ここでは、カナダ出張の足掛かりとなる主要都市・空港の情報と、トラブルを未然に防ぐために最低限押さえるべき基本事項を整理します。
ビジネス渡航で想定される主な都市・空港
出張の目的や取引先の所在地により、渡航先は異なりますが、日本人ビジネスパーソンが主に利用する主要都市と玄関口となる国際空港は以下の通りです。
| 都市 | 特徴 | 主要空港 |
| トロント (Toronto, ON) | カナダ最大の経済・金融の中心地。IT、メディア、製造業が盛んな都市。国内線・国際線のハブ空港。 | トロント・ピアソン国際空港 (YYZ) |
| バンクーバー (Vancouver, BC) | アジア太平洋地域との貿易の玄関口。港湾、テクノロジー、映画産業が発展しています。日本からの直行便も多い。 | バンクーバー国際空港 (YVR) |
| モントリオール (Montreal, QC) | 航空宇宙産業、AI研究、製薬などが集積しています。ケベック州のビジネスの中心であり、フランス語が公用語です。 | モントリオール・ピエール・エリオット・トルドー国際空港 (YUL) |
| カルガリー (Calgary, AB) | エネルギー産業(石油・ガス)の中心地。成長著しい経済都市。 | カルガリー国際空港 (YYC) |
カナダは国内移動でも数時間を要するため、多都市を回る場合は「ハブ空港での乗り継ぎ時間」を十分に確保したスケジューリングが必要です。
出張者が事前に押さえるべきポイント(ビザ、パスポート、有効期限など)
カナダ入国に際しては、書類の不備による入国拒否を防ぐため、以下の3点を必ず確認してください。
eTA(電子渡航認証)の申請
- 日本国籍の出張者が空路で入国する場合、eTA(Electronic Travel Authorization)の取得が必須です。
- 一度取得すれば最長5年間(またはパスポートの有効期限まで)有効ですが、パスポートを更新した場合は再申請が必要ですので注意してください。
パスポートの有効期限
- カナダ入国時に「滞在予定期間+1日以上」の有効期間があれば制度上は入国可能ですが、不測の事態(滞在延長など)に備え、入国時に6ヶ月以上の残存期間があることが推奨されます。
渡航目的の明確化(ビザの要否)
- 一般的な商談、会議、展示会への出席などは「ビジネス訪問者(Business Visitor)」としてeTAのみで入国可能です。
- ただし、現地で対価を得る就労や、機械の据付・修理などの実務作業を伴う場合は、別途「就労ビザ(Work Permit)」が必要になるケースがあります。判断に迷う場合は、事前に専門機関や大使館へ確認することをお勧めします。
日本人出張者のビザ要件
日本国籍の渡航者が、短期間の商談や会議出席を目的としてカナダへ入国する場合、原則としてビザ(査証)の取得は免除されています。ただし、ビザが不要であっても、空路で入国する際には「eTA(電子渡航認証)」の取得が法的に義務付けられています。
短期商用(30日以内)のビザ要否と条件(ビザ免除・滞在許可日数)
ビザ要否一覧(日本国籍)
日本国籍を保持している場合、商談や会議への出席といった一般的なビジネス目的であれば、査証(ビザ)は免除されています。ただし、ビザなしで入国するためには「eTA(電子渡航認証)」の取得が必須条件となります。
eTA(電子渡航認証)の取得義務: 空路でカナダに入国・乗り継ぎをする日本人は、事前にオンラインでeTAを申請し、承認を受けておく必要があります。
「ビジネス訪問者(Business Visitor)」の定義: 以下の活動は、通常ビザなし(eTAのみ)で認められます。
- 商談、会議、国際会議への出席
- 製品の購入やサービスの注文
- 展示会やトレードショーでの情報収集
- カナダ国外で販売された機器の保証期間内におけるアフターサービス(修理・保守)
滞在許可日数:入国審査官の判断によりますが、通常は最長6ヶ月までの滞在が許可されます。30日以内の出張であっても、入国時に「帰りの航空券」や「滞在費用を証明するもの」の提示を求められる場合があるため、準備を怠らないようにしましょう。
30日超・就業目的・駐在の場合に必要なビザの種類の概要
滞在が長期にわたる場合や、カナダ国内の労働市場に直接関与する活動(実務作業など)を行う場合は、たとえ30日以内の短期間であっても「就労許可(Work Permit)」が必要になるケースがあります。
就労ビザ(Work Permit)が必要な主なケース
- カナダ国内の企業から報酬を得る場合
- 現地の現場で実務的な作業(エンジニアによる据付や修理、トレーニング等)を行う場合
- カナダ支社や子会社へ長期駐在する場合
主なビザの種類
- 企業内転勤(Intra-Company Transferee):日本企業のカナダ拠点へ駐在する場合に適用。管理職や専門知識を有する社員が対象です。
- 就労ビザ(LMIAあり・なし):通常はカナダ国内の労働市場への影響を精査する手続き(LMIA)が必要ですが、CPTPP(日加を含む経済連携協定)に基づき、特定の専門職や技術者はLMIA免除で取得できる特例もあります。
ビザ情報を確認すべき公式窓口
ビザの規定は予告なく変更されることが多いため、最新情報は必ず以下の公式窓口で確認してください。
- カナダ政府公式サイト(IRCC:Immigration, Refugees and Citizenship Canada):最も正確で最新の移民・ビザ情報が掲載されています
【管理者へのアドバイス】 出張者が「現場での技術指導」や「機器の修理」を行う場合、本人が「商談」だと思っていても、入国審査官に「就労」とみなされるリスクがあります。具体的な業務内容を事前に法務部門や専門家と共有し、適切な区分で渡航させるように徹底してください。
渡航前チェックリスト(企業・出張者向け)
カナダへのビジネス渡航では、事前のオンライン申請と、現地での不測の事態に備えた書類準備が成功の鍵となります。
【企業・管理者向け】リスク管理と基盤整備
eTA(電子渡航認証)の取得確認
航空機での入国には必須です。申請ミス(パスポート番号の誤入力等)がないか、承認メールの控えを共有させてください。
商用訪問を証明するレター(Invitation Letter)
「会議や商談のみで実労働は行わない」ことを証明するため、日本の本社または現地の受入企業が発行したレターがあると入国審査が非常にスムーズです。
アメリカ経由時の「ESTA」手配確認
米国での乗り継ぎ(トランジット)がある場合、カナダのeTAとは別に米国の電子渡航認証(ESTA)が必須です。
【出張者向け】実務・現地生活の準備
カナダ特有の環境に適応し、到着後すぐに業務を開始するための準備です。
渡航書類のデジタル&紙の控え
eTA承認番号、ホテル予約確認書、復路の航空券控え、保険証券。スマートフォンの充電切れに備え、紙でも持っておくのが鉄則です。
通信環境(eSIM / ローミング)の確保
カナダは公共Wi-Fiも充実していますが、移動中のセキュリティ確保のため、現地4G/5G対応のeSIMやWi-Fiルーターの手配を推奨します。
クレジットカードと少額の現金
カナダは完全なカード社会で、コンタクトレス決済(タッチ決済)が主流です。ただし、チップや緊急時用に50〜100カナダドル程度の現金があると安心です。
冬期の徹底した防寒対策(10月〜4月渡航者)
トロントやモントリオールなどの東部へ行く場合、氷点下20度を下回ることもあります。厚手のダウン、防水仕様のスノーブーツ、手袋、ニット帽は「現地調達」ではなく持参が基本です。
カナダ入国手続きの流れ(到着空港での動き方)
カナダ到着後、入国審査をスムーズに通過するためのステップを解説します。カナダでは「自動端末での申告」と「対面審査」の二段構えが基本です。
1:入国審査場(KIOSK)での操作
飛行機を降りたら「Arrivals(到着)」の案内に従い、入国審査場にある「Primary Inspection Kiosk(自動入国審査端末)」へ向かいます。
- 言語選択: 画面で「日本語」を選択できるため、落ち着いて操作可能です。
- パスポートのスキャン: 顔写真のページを読み取らせます。
- 写真撮影: 画面の指示に従い、端末のカメラで顔写真を撮影します(眼鏡を外すよう指示される場合があります)。
- 質問への回答: 滞在目的や税関申告(免税範囲の持ち込み等)に関する質問に回答します。
- レシートの発行: 完了すると顔写真付きのレシートがプリントアウトされます。これを持って審査官の列に並びます。
【時短テクニック:ArriveCANの活用】
カナダ政府公式アプリ「ArriveCAN」内で、到着72時間前から「事前税関申告(Advance Declaration)」が可能です。機内や出発前に済ませておくと、空港のキオスクではQRコードをかざすだけで済むため、手続き時間を最大50%短縮できます。
2:入国審査官との対面審査
レシートを持って有人カウンター、または簡易審査ゲートに進みます。ここで審査官からいくつか質問を受けます。
ビジネス目的での回答のコツ ビジネス渡航の場合、「実労働(現地から報酬を得る作業)」を疑われないことが最も重要です。以下のフレーズを用意しておきましょう。
- 目的を伝える: “I’m here for a business meeting.”(会議のためです) / “Attending a conference.”(会議に出席します)
- 期間を伝える: “I’ll stay for 5 days.”(5日間滞在します)
- 宿泊先を伝える: “Staying at the [Hotel Name] in downtown.”(ダウンタウンの〇〇ホテルに泊まります)
注意:就労と誤解されないために 「Working(働きます)」という言葉は、就労ビザを持たない場合は禁句です。あくまで「商談(Meeting)」「市場調査(Market Research)」「アフターサービス(Repairing under warranty ※要証明)」といった言葉を選んでください。
3:手荷物の受け取りと最終確認
審査を通過後、Baggage Claimで荷物をピックアップします。 出口には最後の係員が立っており、先ほどのキオスクのレシートを回収します。ここで追加の質問や手荷物検査を指示される場合もありますが、通常はレシートを渡すだけで外に出られます。
空港から市内までの移動手段
カナダの主要空港から市内中心部への移動は、鉄道網が非常に整備されています。ビジネス渡航者が最も利用するトロントとバンクーバーの2大都市を中心に、最適な移動手段をまとめました。
トロント・ピアソン国際空港(YYZ)からのアクセス
トロント市内(ダウンタウン)へは、空港特急「UP Express」の利用が最も確実でスピーディーです。
UP Express(特急列車)
- 所要時間: ユニオン駅(市内中心部)まで約25分。
- 運行間隔: 15分おきに運行。
- 料金: 片道12.35カナダドル。
- 決済: クレジットカードのタッチ決済(Visa/Mastercard等)が利用可能で、券売機に並ぶ必要はありません。
タクシー・配車アプリ(Uber / Lyft)
- 所要時間: 約30〜60分(渋滞に大きく左右されます)。
- 料金: タクシーは約60カナダドル〜の定額制、配車アプリは需給により変動。
- 乗り場: ターミナルごとに指定の「Ride Share」ピックアップポイントがあります。
バンクーバー国際空港(YVR)からのアクセス
バンクーバーは「SkyTrain」が空港に直結しており、非常に利便性が高いのが特徴です。
SkyTrain (Canada Line)
- 所要時間: ダウンタウン(ウォーターフロント駅)まで約25分。
- 運行間隔: 日中は数分おきに運行。
- 料金: 運賃 + 空港加算料金(5カナダドル)。
- 決済: コンパスカード(ICカード)のほか、クレジットカードのタッチ決済で直接改札を通れます。
配車アプリ(Uber / Lyft)
- 乗り場: 国際線到着フロアを出てすぐの指定エリアに配置されており、看板も分かりやすく設置されています。
モントリオール・ピエール・エリオット・トルドー国際空港(YUL)からのアクセス
- 747 Express Bus: 市内中心部まで約45〜70分。24時間運行しており、主要な地下鉄駅やホテル近くに停車します。
【管理者へのアドバイス:経費精算の効率化】
カナダではUberやLyftが完全に市民権を得ています。アプリ内で「ビジネスプロフィール」を設定しておけば、法人カードでの自動決済や、領収書のPDF送付が自動化されるため、出張者の経費精算の手間を大幅に削減できます。
滞在中の注意点(ビジネス慣行・ルール)
カナダは「アメリカと似ている」と思われがちですが、独自のビジネス文化と社会ルールを持っています。円滑な関係構築のために、以下の4点を押さえておきましょう。
多様性への配慮とプロフェッショナリズム
カナダは「マルチカルチャリズム(多文化主義)」を国策として掲げており、ビジネスパートナーの背景(人種、宗教、性自認など)は多岐にわたります。
- NGな話題: 政治、宗教、個人のバックグラウンド(出身地を執拗に聞くなど)は、プライバシーの侵害とみなされることがあります。
- 公平な態度: どんな相手に対しても敬意を払い、差別的なニュアンスを一切含まない言動が求められます。これは企業のコンプライアンス上、最も重要なポイントです。
ビジネスコミュニケーションの傾向
- スモールトーク(雑談): 本題に入る前に、天気、スポーツ(特にホッケー)、現地の印象などの軽い雑談で場を和ませるのが一般的です。ただし、プライベートに踏み込みすぎない距離感が重要です。
- 時間厳守: 「時間は正確に」が基本です。会議に遅れる場合は、必ず事前にメールや電話で連絡を入れるのがマナーです。
- 英語とフランス語: カナダの公用語は英語とフランス語です。ケベック州(モントリオールなど)でのビジネスでは、フランス語への配慮(挨拶をフランス語で行う、資料を両言語で用意するなど)が非常に高く評価されます。
チップの相場とキャッシュレス事情(2025年最新)
カナダではサービスに対してチップを払う文化がありますが、近年のインフレの影響で相場が上昇傾向にあります。
- レストラン: 総額(税前)の15%〜20%が標準です。
- タクシー・配車アプリ: 10%〜15%程度。
- 決済方法: ほとんどの店舗で端末に「15%, 18%, 20%」といった選択ボタンが表示されるため、操作に迷うことはありません。2025年現在、現金を使う場面はほぼなく、スマホやカードのタッチ決済が主流です。
法律と公共のルール(飲酒・喫煙・大麻)
- 公共の場での飲酒: 公園、路上、ビーチなど公共の場での飲酒は法律で禁止されています(特定の許可エリアを除く)。
- 喫煙: ほとんどの公共施設、レストラン、オフィスビル、公共交通機関は屋内完全禁煙です。建物の入り口から数メートル以上離れなければならないルールも厳格です。
- 大麻(カナビス): カナダでは娯楽用大麻が合法化されていますが、日本国籍者は日本の「大麻取締法」が国外でも適用される可能性があるため、興味本位であっても決して手を出さないよう、企業としても注意喚起を徹底してください。
出国時の手続きとオーバーステイ対策
カナダから日本へ帰国する際、空港での「出国審査」というプロセスは存在しません。しかし、記録は航空会社を通じて当局に管理されており、1日でも滞在期限を過ぎると深刻なペナルティが課されます。
空港での出国手続き(対面審査なし)
カナダには、審査官がパスポートにスタンプを押す「出国審査」がありません。出国時の手続きは以下の通りです。
手続きの流れ:
- 航空会社のカウンターまたはキオスクでチェックイン。
- セキュリティチェック(保安検査)を通過。
- そのまま搭乗ゲートへ。
出国記録の管理: 航空会社が搭乗者リストをカナダ当局(CBSA)に報告することで、自動的に出国が記録されます。
空港到着の目安: トロントやバンクーバーなどの主要空港は非常に混雑するため、出発の3時間前には到着しておくのがビジネス渡航の鉄則です。
オーバーステイ(滞在期限超過)のリスク(2025年最新)
2025年後半より、カナダ政府は不法滞在に対して「ゼロ・トレランス(一切容認しない)」方針を打ち出しており、監視システムが大幅に強化されています。
- AIによる自動フラグ立て: 入国時に許可された期限(通常は6ヶ月以内)を1時間でも過ぎると、AIシステムが自動的に違反者としてフラグを立て、将来の入国やビザ申請に即座に影響を与えます。
- 再入国禁止の罰則: 意図的かどうかにかかわらず、オーバーステイの事実があると、次回以降のeTA申請が却下されるほか、最悪の場合は数年間の再入国禁止措置が取られます。
- 管理者の対策: 出張者が「入国審査でいつまで滞在を許可されたか」を必ず報告させ、管理台帳で期限を把握してください(※パスポートにスタンプがない場合でも、eTAでの入国は通常6ヶ月ですが、審査官により短縮されている場合があります)。
税金還付(GST/HST)に関する注意点
以前カナダにあった旅行者向けの「宿泊税や物品税の還付制度(Visitor Rebate Program)」は、2025年現在、一般の観光客・短期出張者向けには廃止されています。
- 法人としての還付: 出張者が支払ったホテル代や機材購入費に含まれる消費税(GST/HST)は、非居住者であっても特定の商取引(カナダ国内での商用活動)に関連する場合、法人として後日払い戻しを受けられる可能性があります。
- 対策: 領収書(Receipt / Invoice)は必ず「会社名」が入ったものを保管し、帰国後に経理担当者や税理士を通じて確認してください。
参考リンク・公式情報